matobaの備忘録

育児しながら働くあるエンジニアの記録

「歴史の大局を見渡す」という本を読んだ

「歴史の大局を見渡す」という本を読んだ。簡単な読書感想を書いておこうと思う。

書いてる人はどんな人?

  • 歴史学者と哲学者の夫妻が書いている。二人とも1981年に亡くなっている。
  • 1935年から1975年にかけて書かれた哲学と歴史の10巻の超大作 The Story of Civilization(文明の物語)で哲学と歴史の著者として世界的に有名になったとのこと。
  • この本は、超大作を書いたあとに10巻のエッセンスを伝えるために書いた本。

私が本を買った理由

  • 歴史を広い視点で知りたかった。長期的な目線や大局的な目線を獲得したかった
  • とりあえずこの本を読んでどんな話が書いてあるのか、歴史学者の視点を少しでも獲得したいと思った

短い感想

私が見ていた長期的はせいぜい10年とか20年くらいを想像していただが、そういうレベル間の話ではなかった1000年2000年、それ以上の流れから今の話を考える話だった。

だからどうという話ではないのだが、自分の視点は短い範囲しか意識できていないんだなあ、というのを感じた。

この本を今読んだ理由の一つの、年末年始なので、忙しい日々の中では読みにくい本を読みたい、というのもあったが、その目的を達成するような本でもあった。

印象的なフレーズ

ざっと読んで印象的なフレーズがたくさんあったのでその一部を紹介しつつ、コメントしていく。

人は将来、より大きな舞台でより大きな過ちを犯す定めにあり、過去という膨大な時間はそのリハーサルを繰り返すためだけのものだったのではないか。 P10

過去を学び、次に活かして、その結果新しい失敗をすることを繰り返すと、より大きな失敗が発生し続けるという流れの話があり、なるほどと思った。

そういえば、技術の創造と設計という本の中で、『人は過去の経験を活かしてより大きなものを作ろうとする。それを繰り返すと、いつしか大きくなりすぎる』みたいな話を見た気がする。(うろ覚え)

どう考えても、歴史について書く作業は科学とは言えない。せいぜい、産業、芸術、哲学といったところだろう。真実を追求する産業であり、種々雑多な資料に意味のある秩序を与える芸術であり、広い視野と深い認識を求める哲学である。P12

最近、哲学が流行っているように思うが、歴史を哲学と考えるのはなんか印象的に感じた。

歴史は地質学の支配下にある。毎日、海がどこかの土地を侵食し、土砂が海に流れ込む。年は水没し、水の中の大聖堂が…(略) P16

学問の関係性について書いているのが印象的だった。当たり前だが、学問にも依存関係がある。

地理学は歴史の基盤であり、歴史を育む母、歴史をしつける家庭である。 P17

同じく学問にも依存関係の話で気になった。

技術が発達すると、地理的要素はあまり大きな影響力をもたなくなる。その土地の特徴や地勢によって農業や工業、通商の可能性が開かれるが、その可能性を現実に変えられるかどうかは、リーダーの想像力、先導力、それに続く人々のたゆまぬ努力にかかっている。P20

技術の発達で地理的要素の影響力が弱まるのは興味深い。地理的要素の影響力を弱める方向で技術が発展しがちとも言える気がする。

文明化した人間は適正な法の手続きのもとに相手を破滅させる。P22

これはそうだと思うが、このように表現されると何か印象が違うなと思ったフレーズ。

文明を作るのは人種ではないが、人を作るのは文明である。(中略)イングランド人がイングランドの文明を創るのではないが、イングランドの文明はイングランド人を創る。 P42

文明や文化の成り立ちに関心があるので、興味深い話であった。人が文明を作る。文明が人を創る。どっちが先だ?とか思ったりもする。

(産業革命以前の話)子どもは財産で、避妊はモラルに反した。 (産業革命の後)経済的に成熟する(つまり、家族を支える経済力を持つ)のが以前より遅くなった。子どもはもう財産ではない。P54

どこかで子どもの意味が変わったんだろうなと思っていたが、産業革命がその狭間なんだな、というのがここから見えたりしたのが印象的だった。

産業社会には個人主義が広がり、父母の権威を支えてきた経済的根拠が失われた。 反抗的な若者は村の監視の目から逃れることができた。都市の匿名性に守られて自分の犯した罪を隠すことができた。 P59

都市の匿名性は、若者が新しいことにチャレンジするハードルを下げているのだが、匿名性によって罪を隠すという側面が指摘されているのが興味深いと思った。実際、匿名性の高い社会においては、失礼な人や不誠実な人が増えるように感じている。

宗教は、親や教師が子供をしつけるのに役立ってきた。宗教は社会の底辺にいる人にも存在意義と尊厳を認め、儀式を通じて人と人ではなく、神と人が契約を結ぶことにより社会は安定した。 P62

宗教の話はセンシティブなので、あまり話をしないようにしているのだが、これは印象的だった。人と人で話をすると存在意義とか尊厳の話とか、上下の話に発展しやすいが、神と人という構図がその話への発展を避けるのは、なるほどだった。

富は、品物(たいていのものは壊れやすい)の蓄積というよりは、生産や交換のための秩序と手段である。そして、貨幣や小切手自体に価値があるわけではなく、人や組織を信頼することでその価値は成立している。 P109

「富とは」についての印象的な話だと感じた。そもそも「富とは」という問いについてあまり考えたことがなかったので、今後考えてもいいのかもしれないと思った。

私たちは文明を「文化的創造を促す社会的秩序」と定義した。文明とは、慣習、モラル、法によって、守られる政治的秩序、生産と交換の継続によって保たれる経済的秩序である。そして、アイデア、文明、様式、芸術の創作、表現、実験、結実のための自由と便宜による文化的創造である。P134

なるほどである。文明とは何だろう、の一つの参照にできる。

科学や技術の発達は恩恵をもたらしたが、それには弊害も伴っていた。快適さ、便利さを手に入れたことで、私たちは体力が落ちた。モラルまで低下したかもしれない。交通手段が大いに発達したが、犯罪のために使われることがあり、人や自分を死なせることもある。 P149

科学技術の発展に関する批判的な文言。技術者として、この話は印象的であった。

医学のおかげで寿命も伸びた。しかし病気や障害や暗い気分をかかえたまま生き長らえるのはどうだろう。その日、世界で何があったかを知る力、伝える力が飛躍的に増したが、村の出来事くらいしかわからなかった時代に生きていた人が羨ましくなることがある。 P150

これも技術の発展に関する批判的な文言。幸せとは何だろうか、ということを考えたくなる文章だった。

歴史とは、遺産の創造とその記録と言える。進歩とは、豊かな遺産を築いて守り、伝え、使うことである。P160

いいフレーズだなと思った。

終わり

普段は読まないような歴史家の視点に触れられるいい本だった。

短くて読みやすい本なので、気になった人は一読をお勧めします。

ではでは